ハタチの若者2人が訪れた出雲での様子を綴る連載「ハタチと旅と出雲」。前回の『飛行機と列車を乗り継いで。東京から神の国・出雲へ』という記事では、東京から出雲・玉造温泉まで向かう道中をまとめました。
今回の連載では「奇跡的な商業復興を遂げた」と言っても過言ではない出雲の温泉地帯・玉造温泉を歩いた様子を紹介していこうと思います。旅の趣旨については『春の雲州・出雲へ』という記事で書いているので、気になった方はぜひ最初の記事から読んでみてください。
「ハタチと旅と出雲」は松江観光協会 玉造温泉支部とのタイアップ企画です。
目次
出雲旅の拠点は玉造温泉で。
玉造温泉駅から送迎の車に揺られて15分ほど、玉造温泉の入り口にやってきました。
温泉街のメインストリートは大通りから一歩入ったところにあるのですが、多くの観光客が直進してしまい温泉街へ辿りつけない事態が多発し、写真のように「まよわず右へ」という看板が生まれたそう。
この時期は晴天も多く旅行にぴったりの季節だったのですが、残念ながら僕らが滞在した2日間は曇天続き。次は晴れた日に来たいな。
メインストリートに入るとすぐに見えてくるのが今回の旅で協力していただいた松江観光協会 玉造温泉支部の観光案内所。ここにも「ひとまず左へ」と書いてあるユニークな看板が目に入ります。
詳しくは後述しますが、こうした看板は町づくりの過程でデザイナーさんの遊び心によって生まれたモノ。どこか柔らかくほっこりするような感じが、この町全体の雰囲気を体現しているような気がしています。
今回は「星野リゾート 界 出雲」という素敵な宿に宿泊したのですが、その話はまた今度。サクッとチェックインして、さあ、観光に出かけよう。
10年前は町存続のピンチ。復活の火付け役となった「叶い石」の話
ここ出雲は『日本書紀』や『古事記』にも描かれることの多かった神話の多い地域で、現在でも多くの神が出雲大社に集まることから、出雲では10月が「神在月」と呼ばれているのは皆さんも知っているかもしれません。
そして日本では古くから三種の神器の1つとして知られている「勾玉」は、ここ玉造で作られたモノが最高級品。実際に玉造で作られた勾玉が三種の神器の1つ「八尺瓊勾玉」になったと伝えられているそう。
そんなわけで、玉造温泉のメインストリートには勾玉をモチーフにしたオブジェが多く設置されています。
今でこそ「縁結びスポット」「美肌温泉に入れる」といった口コミで多くの観光客が訪れるようになった玉造温泉ですが、つい10年前は当時のリーマンショックの余波を受けて多くの宿泊施設の業績が悪化。
その結果1年間で4つの宿が廃業になってしまったそうで、この町全体が暗い雰囲気に包まれてしまっていたんだと、この旅を案内してくれた角さんは語ってくれました。
そんな状況をどうにか改善するため、玉造では行政と民間、いわゆるまちづくり会社が一体となり、コンセプトを持った観光地としての町の開発に乗り出します。
ここからは、神話に残る町の再興の過程を1つ1つ覗いていきましょう。
まず案内していただいたのは、この町が再興するきっかけとなった玉作湯神社。
玉造温泉メインストリートの最深部に位置するこの神社は、唯一完本に近い形で現存する『出雲国風土記』にも登場する歴史あるもので、勾玉の神様と温泉の神様を祀る神社です。
玉作湯神社には古来から「触るだけで自分の願い事が叶う」と言われている『願い石』があるのですが、その存在は観光客に知られる機会も少なく、観光バブルもとうに終わった2000年代はすっかり地元の人しか訪れない場所になっていたそうです。
観光地のまちづくりを行っていく上で最も大切なのが、町のシンボル・ランドマークとなる場所を作ってそれを宣伝すること。
地元の人しか知らなかったような『願い石』は、玉造温泉のシンボルとして観光協会にプッシュされることになり、旅行雑誌に掲載。いつしか「ここに来れば願いが叶う・縁に恵まれる」と多くの観光客が訪れるスポットになったのでした。
さらに玉作湯神社は玉造地区の最深部にあるため
- 玉造に来たらまず最深部の玉作湯神社に行く
- 最深部から戻ってくる過程でストリートのお店を見る
という人の流れも成立。閉まったシャッターが多かった玉造のメインストリートにお店が戻ってくるきっかけにもなりました。
玉造の再興に大きな貢献をした玉作湯神社、現在では『願い石』のパワーを借りて「叶い石」という自分だけのお守りを作ることができます。
玉作湯神社を入って左手にある社務所で「叶い石」のセットを戴きます。中には
- 叶い石
- お守り
- 願い札
の3点。叶い石はセットを開けてみないと色や形が分からないようになっているので、あなたの手元に来た石があなただけの叶い石。
お清めと参拝を済ませたのち、セットについてきた叶い石を持って「願い石」に向かいます。願い石を流れる水を少しすくって、叶い石自体を清めてあげましょう。
叶い石を願い石に当て、自分の願い事を叶い石に込めます。願い事を込めるあまり叶い石を削ってしまわないよう気をつけて。
叶い石に願いを込めたら、その願い事を今度は「願い札」に書いて可視化します。1枚は札入れに、もう一枚は叶い石と一緒にお守りの中に。
紐をキュッと結べば自分だけのお守りが完成。「願い事が叶ったら、叶い石を返しにまたおいで」という地元の方の言葉が頭の片隅に残っています。
遊び心が詰まってる。玉造のユニークな看板とおすそ分け茶屋
そうそう、玉造温泉には他の観光地ではあまり見ることがないユニークな立て看板が多く並んでいます。この看板もまちづくりの過程で作られたもので、担当していたデザイナーさんが「ただ案内するよりも、こっちの方が人間味がある」と遊び心を盛り込んだんだそう。
上に載せた白い看板は玉造温泉メインストリートの至る所に、そして思わずクスッと笑ってしまうような「ややおせっかいな看板」は、全部で9箇所に設置されています。
僕は全ての看板を見つけましたが、この記事を読んでいる皆さんはぜひ自分の足で探してみて。
看板探しで疲れたら、玉作湯神社の近くにある「おすそ分け茶屋」で休憩。ここでは抹茶・珈琲の代金は前にここを訪れた人からのおすそ分け。次に来る人のために善意をおすそ分けしてあげましょう。
気になるところに白粉を。おしろい地蔵のある清巌寺
そうそう、玉造温泉に訪れたら玉作湯神社の近くにある清巌寺に行くのもおすすめです。
この神社には昔から病気平癒に効果のある「おしろい地蔵」なる地蔵様がいて、自分の体の気になるところと同じ部分におしろいを塗ると、あっという間にその部分が治ってしまうんだそう。
友人は目の当たりが気になるようで目におしろいを塗り塗り。僕は肩こりがひどいので肩を重点的に塗りました。
清巌寺では地蔵様におしろいを塗るだけでなく、お札を使って気になるところが治るようにお祈りすることも可能です。2枚目のようにお札に書かれている人の絵に、自分が身体で気になるところを塗りつぶすだけ。
掛けたお札は定期的に住職の方が回収し、お焚き上げしてくれるそうです。これで肩こりがちょっとでも良くなればいいなあ…。
玉造温泉は肌にも良い。湧いている温泉を持ち帰ることも可能
まちづくりによって観光客が増加した玉造温泉は、昔から美肌効果があることで知られています。前述の『出雲国風土記』にも「川辺に湯が湧き老若男女が賑わった」と記されていることから、日本で初めて美肌効果が噂になった温泉とされているのだとか。
当時の温泉について、その出雲国風土記によると、 『一度入浴すればお肌が若返るようになり、二度浴すればどんな病も治癒してしまう。その効能が効かなかった事は聞いたことがないので人々は神の湯と呼んでいる』と記述が残されています。
また、その美肌作用などの評判が都に伝わり、【枕草子】にも玉造温泉が記されました。
そんな玉造温泉の効果は健在で、現在では湧き出ている温泉を持ち帰り、化粧水代わりに使うことも可能。
こんな風に200円で販売されているスプレーボトルを使って汲めるほか、偶然お会いした地元の方なんかは2L近いペットボトルでまとめて持って帰っていました。
温泉でしっかり手を洗ったあと、僕らもボトルで温泉を持ち帰りました。
メインストリート沿いには美肌効果のある温泉の成分をふんだんに使った化粧水を販売しているお店もオープン中。「温泉の成分を使った化粧水」なんて聞いたことがなかったので、ついつい買ってしまいました。
日本で唯一「出雲型勾玉」を受け継ぐお店でオリジナルブレスレット作り
せっかく勾玉が有名な出雲に来たんだから、勾玉を使ったアクセサリーが欲しい!そう思った僕らは「日本で唯一出雲型勾玉を受け継ぐ」という、たまゆらに入ってみることに。
たまゆらではこんな風に様々な石を「出雲型勾玉」に加工したモノが販売されていて、店内で売られている既製品のほかに自分で好きな石を組み合わせて自分だけのブレスレットを製作する事が可能。
僕らは2人とも既製品の中に気に入ったものがなかったので、どうせならと石を選んでオーダーメイドで注文しました。満足。
ちょうど日も暮れてきたし、メインストリートにあるコーヒースタンド・Yori荘でコーヒーを頂いて玉造温泉のぶらり旅は終了。オーナーの方も玉造の魅力に惹かれてコーヒースタンドを開業したようで、僕ら若者が訪れていることを嬉しがってくれました。
コンパクトだからのんびりできる。玉造温泉で非日常を楽しもう
つい10年ほど前までは温泉地自体が消滅してしまいそうだった玉造温泉は今、観光協会とまちづくり会社がタッグを組み、栄えていた当時の雰囲気を取り戻しつつあります。
玉作湯神社の願い石も、おしろい地蔵のある清巌寺も、美肌効果もある温泉も、全部昔からあったもの。こうした魅力あるものたちを一生懸命に広めようと、玉造温泉・島根の人は奮闘しています。
例えば玉造温泉の魅力を紹介する公式サイトは、他地域の観光協会が運営するサイトと比較しても格段にしっかり作られていて、玉造温泉の魅力が存分に伝わる設計になっていたり。
例えば大学生が作るフリーマガジンに広告を出稿して、今でも十分多い若者層の観光客をより一層増やそうとしていたり。
玉造温泉で暮らす人々は、彼らが常々口にする「若者、特に学生旅行の聖地にしたいんだ」という言葉の通り、不慣れであろうインターネットを使いこなし、若者を呼ぶためにひたむきに活動していました。
玉造温泉は、大きな観光地ではなかなか感じ取れない現地の人の想いや熱意、そして今も道半ばの再興物語を味わえるあたたかい観光地。いつこの地を訪れても、きっと現地の人たちは温かく迎え入れてくれることでしょう。
いつかもっと大人になった時、いや、また近いうちに訪れたいな。
すっかり連載の締め感が出てしまいましたが、出雲旅はまだまだ続きます。次回は、せっかくの出雲旅行なんだし贅沢しよう!ということで宿泊した「星野リゾート 界 出雲」の様子を紹介していこうと思います。